大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)361号 判決

控訴人

横浜日野自動車株式会社

右代表者

金津赳

右訴訟代理人

田中義之助

外二名

被控訴人

有限会社京浜重量運搬社

右代表者

福元功

被控訴人

中野栄治

右訴訟代理人

村山幸男

朝野哲朗

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人に対し、被控訴人有限会社京浜重量運搬社は二六〇万五〇四三円及び被控訴人らは連帯して、六一六万一七八〇円ならびに右各金員に対する被控訴人有限会社京浜重量運搬社につき昭和四九年九月八日から、被控訴人中野栄治につき同年一一月二三日から各完済に至るまで、年六分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その四を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。

この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。控訴人に対し、被控訴会社は一三八万一八八八円及び被控訴人らは連帯して九二二万三七八〇円ならびに右各金員に対する昭和四九年九月八日から完済に至るまで、年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人中野訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加する外は、原判決事実摘示と同一である(但し原判決一二枚目表四行目の「被告」とあるを「被控訴人会社」と訂正する)からこれを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件自動車割賦販売契約において契約が解除され、売主に自動車が返還されたときの損害賠償額の算定については、特約として売主が返還自動車を任意処分したときは、処分代価より修理費、整備費、処分に要した経費等を差引いた価額をもつて返還時の価格とし、その処分前に神奈川県自動車販売店協会中古車査定委員会等に査定を依頼したときは、その査定価格を返還時の価格とする旨合意されておるところ、このことは返還自動車の処分が可能なことを前提としてしたものであるから、返還を受けて直ちに処分できない特段の事情がある場合は、処分が可能となつたときの時価をもつて返還自動車の価格とする合意があつたものとみるべきである。

しかるところ本件自動車返還時においては、被控訴会社からの申出により、被控訴会社において控訴人が容認できる再建計画を立てれば自動車を被控訴会社に引渡す旨の話合ができていたのであり、したがつて控訴人が自動車の返還を受けても直ちに処分することは双方の合意により見合わされていたのであり、また返還自動車を処分するためには営業用ナンバーをはずさなければならないが、これをはがすことは被控訴会社でなければできないことであつたのに、(2)、(4)ロの自動車については昭和四六年八月まで、その余の自動車については同四七年八月まで、被控訴会社が営業用ナンバーをはずす手続きをしなかつた事情があつたため、右時点まで返還自動車の処分ができなかつたものであるから、営業用ナンバーをはずし処分可能になつた時点において査定した価格即ち甲第九ないし第一三号証による価格が返還自動車の価格である。

二  そして査定が遅れたのは、右のように控訴人の一方的怠慢、過失によるものではなく、被控訴会社との合意によりあるいは被控訴会社の営業用ナンバーをはずすという行為がなかつたため遅れたものであるから、査定が遅れたことをもつて控訴人の信義則違反とすることはできない。

三  仮に右主張が認められないとしても、トラツクやトレーラーは一年間使用した場合新車価格の六〇パーセント前後、二年経過後のもので更にその六〇パーセント前後が、その一般的標準価格とされているところ、(1)の自動車は販売時が昭和四三年七月三〇日、返還時が同四六年一月六日従つてその使用期間は約二年五月であり、(3)の自動車は販売時が同四四年二月二七日、返還時が同四六年一月六日従つて使用期間は約二年であり、(4)イの自動車は販売時が同四四年九月三〇日、返還時が同四六年一月六日従つて使用期間は約一年三月であり、(4)ロの自動車は販売時が同四四年九月三〇日、返還時が同四五年一〇月二二日従つて使用期間は約一年一月であるから、前掲標準価格を基準にして、返還時の各自動車の時価を推定することが可能である。

(被控訴人中野の答弁)

一 右一の主張は否認する。自動車の処分価格は処分時期により変動するものであるから、長期間放置した後の処分価格を返還時の価格とする合意があろうはずはなく、仮に控訴人主張のごとく処分できない事情があつたとしても、控訴人において返還後直ちに価格を査定することは可能であり、その査定価格をもつて返還時の価格とすることができたはずである。また他のデイーラーは被控訴会社の再建計画を了承したにかかわらず、控訴人は被控訴会社が倒産後幾度か再建計画を提示し、自動車の返還を懇請したが、控訴人は一方的にこれを拒否した。そこで被控訴会社は昭和四六年春には、自動車の返還を断念し、他のメーカーの中古車と代替してその中古車にて営業を継続しようと考え、控訴人に対し営業用ナンバーだけでも返還して欲しい旨要求したが、控訴人はこれすら拒否したのであつて、営業用ナンバーをはずすのを拒否したのは控訴人である。

二 右二、三の主張は争う。

(証拠関係) 〈略〉

理由

一当裁判所も控訴人は自動車の販売を目的とする会社であり、控訴人と被控訴会社間に控訴人主張の本件自動車割賦販売契約が締結され、被控訴人中野は右契約につき控訴人主張のとおり連帯保証契約をしたところ、右契約は控訴人主張のとおり被控訴会社の割賦代金不払により解除されたものと認定する。その理由は次に訂正するほか原判決説示の理由(原判決一六枚目表三行目から一七枚目表六行目まで)と同一であるからここに右説示を引用する。

原判決一六枚目裏三行目の「証人西谷正二」から同四行目の「尋問の結果」までを「原審(第一回)及び当審証人西谷正二の証言、原審及び当審における被控訴人中野本人尋問の結果」と、同一七枚目表五行目の「解除する旨の」とあるを「口頭をもつて解除する旨」と訂正する。

二右引用にかかる〈証拠〉によると、本件自動車割賦販売契約においては、契約が解除せられた場合控訴人が販売自動車の返還を受けたときは当該自動車の通常の使用料額を損害額とするが、割賦代金額と自動車の返還時の時価の差額が右使用料額を超えるときはその差額を損害額とし、特約として控訴人において当該自動車を任意処分したときは処分代価より回収費、部品代金、修理費その他必要経費を差引いた価額をもつて右返還時の価格とし、処分前に神奈川県自動車販売店協会中古車査定委員会(但し本件(4)イ、ロの各自動車については財団法人日本自動車査定協会)に査定を依頼したときはその査定価額をもつて返還時の価格とする旨の約定のなされていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないところ、控訴人が控訴人主張の日時に本件自動車の返還を受けたことは当事者間に争いがない。

ところで〈証拠〉(本件自動車割賦契約書)記載の契約条項を通覧し、かつ、自動車の返還を受ける控訴人が自動車販売を目的とする会社であることに徴すれば、右認定の約定は割賦代金不払により契約を解除する場合における売主・買主の利害得失を衡平に調整することを企図して、売主たる控訴人は早期に自動車を再び他に売却して損害の回復を図るものであることを前提として損害賠償額を予定したものとみるべきである。そして〈証拠〉によれば、自動車は長期間使用せず放置した場合は使用を継続している場合よりもその価値は低下するものであり、そしてトラックやトレーラー等にあつては一年間使用した場合の一般的標準価格は新車価格の六〇パーセント前後、二年経過後の場合はさらにその六〇パーセント前後となり、殊に大型トレーラーにあつては三年以上経過した場合殆んど評価できないことが認められる(右認定を左右できる証拠はない)のであつて右認定事実をも斟酌すると、右損害賠償額を算定するにあたり前記特約条項の適用さるべき自動車を任意処分した場合、査定機関に査定を依頼した場合とは返還時と隔たりの少ない時期即ち一般的価値の変動を考慮する要のない時期に処分なり査定のなされた場合をいうものと解するのが相当である。

この点につき控訴人は、返還を受けた自動車を直ちに処分することができない事情があるときは処分可能となつた時期における価額を返還時の価格とすることの合意もなされたものとみるべきであると主張し、本件においては右特別の事情があつたから処分可能となつた時期における査定価格と割賦代金の差額が損害賠償額となるという。しかしながら自動車の返還を受けた以上査定を得られる限り前記合意により定められた方法により賠償額を算出することに何らの支障もないのであるから、明示の合意もないのに特段の算出方法が定められたものとみることは相当ではない。控訴人のこの点の主張は採用できない。

三しかるところ控訴人は右返還を受けた自動車につき財団法人日本自動車査定協会に依頼した査定価格を基礎として損害賠償額を主張するのでこの点につき検討するに、控訴人において自動車の返還を受けた後前示相当期間内に自動車を任意処分したことについては本件全立証によるもこれを認めることができないから、前示相当期間内に査定機関による査定を受けたときは前記特約によりこれを返還時の価格として賠償額の算定がなさるべきであるが、〈証拠〉によると控訴人が主張の査定機関に本件自動車の査定を依頼し、本件(1)(3)(4)イの各自動車につき昭和四七年八月三一日(1)の自動車は六万円、(3)の自動車は一〇万円、(4)イの自動車は四二万円と査定され、(2)(4)ロに各自動車につき昭和四六年八月一二日(2)の自動車は二四万九〇〇〇円(4)のロの自動車は八七万五〇〇〇円と査定されたことは認められるけれども、右査定は本件(2)の自動車を除くその余の自動車は返還時から一〇か月ないし一年八か月を経過してなされたものであり、右のように著しく期間を経過してなされた時期での査定は前示相当の期間内になされたものとはいえないところ、他により早い時期であり、かつ自動車処分前に査定の行われたことの主張立証はない。そしてまた本件(2)の自動車についての右査定も後述するとおり適正な査定とはいえないから、前示特約にいう査定には該らないと解するのが相当であり、他に自動車処分前に査定の行われたことの主張立証はない。してみれば右各査定により得られた価格を基礎とする控訴人の主張は採用できない。

四そうすると前示特約により返還時の価格を算出することもできないことになるところ、損害賠償額の予定に関する前記合意はこれをなすに至つた前示の趣旨に鑑みこのような場合は、返還時の時価を他の資料により判定し、その時価を基準にして損害額を算出することを妨げないものとする趣旨と解すべきであるから、この観点からさらに検討する。

〈証拠〉とによれば、右各号証記載の昭和四六年一月二〇日現在の推定評価額は、財団法人日本自動車査定協会が本件自動車の新車価格に使用経過月数等を基礎にした残価率を乗じて算定したものと認められるところ、これは返還時の時価を算定するにつき相当の方法というべく、右によると本件自動車の返還時の時価は(1)の自動車の時価は七六万二〇〇〇円、(2)の自動車の時価は一〇二万五〇〇〇円(前記査定協会は昭和四六年八月一二日に二四万九〇〇〇円と査定しているのであるが、原審における被控訴人中野本人尋問の結果によれば、(2)の自動車は昭和四七年夏ごろ控訴人から丸満運輸に一三〇万円で売渡され、更に同四八年八月ごろ被控訴人中野が丸満運輸から一〇〇万円で買受けたことが認められ、このことに徴すると右査定価格は約一年経過後及び二年経過後のいずれの取引価額に比しても著しく低額に過ぎ、回収後の整備により価値の増加の程度を知り得る資料のない本件では適正な査定により得られたものといえない)、(3)の自動車の時価は九一万九〇〇〇円、(4)イの自動車の時価は一三九万円、(4)ロの自動車の時価は二一四万八〇〇〇円と認めるのが相当である。右認定に反する甲第二二ないし第二五号証は価格の算出の根拠が詳らかでないから採用し難く、甲第九ないし第一一号証、第一三号証は返還後長期間未使用で経過後の査定価格を記載したもので右判断の妨げとすることはできず他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

五そこで右認定の返還時価格を基礎として控訴人が本件割賦販売契約を解除したことにより蒙つた損害につき検討する。(1)の自動車の損害額は、その割賦代金四二五万六六五二円から右返還時の時価七六万二〇〇〇円を差引いた三四九万四六五二円であるところ、右自動車につき被控訴会社が控訴人に支払つた割賦代金は損害額に充当される約定であつたことは当事者間に争いがない。そこで被控訴会社が控訴人に支払つた右自動車の割賦代金を検討すると、即時金五〇万円を支払つたことは当事者間に争いがないが、控訴人は右即時金を含め、右自動車の割賦代金として被控訴会社が支払つたのは二八一万四七六四円であると自認するのに対し、被控訴会社は控訴人主張の支払金額より多額を支払つた旨主張し、被控訴人中野本人は原審において右主張に副う供述をするけれども、その明細につき何ら主張・立証しないから、右自動車の支払金額は控訴人主張どおりの金額であると認めるのが相当である。そうすると、控訴人主張の支払代金二八一万四七六四円は前掲損害金三四九万四六五二円に充当されることになるから、控訴人の(1)の自動車の割賦販売契約を解除したことにより蒙つた損害額は六七万九八八八円である。

以下同様の理由により、(2)の自動車(代金四七一万七五四〇円、即時金二〇万円を含め支払金額一七六万七三八五円)、(3)の自動車(代金三六九万〇二二八円、即時金二〇万円を含め支払金額一四七万一三〇八円)、(4)イ及びロの自動車(代金一〇二七万一五三二円、即時金一一七万円を含め、支払金額一八七万一六七二円)について、控訴人の蒙つた損害額を検討すると、(2)の自動車については一九二万五一五五円、(3)の自動車については一二九万九九二〇円、(4)イ及びロの自動車については四八六万一八六〇円がその損害額であり、その結果被控訴会社は全損害金八七六万六八二三円を、そして被控訴人中野は(3)、(4)イ及びロの各自動車の損害金六一六万一七八〇円を、それぞれ控訴人に支払わなければならないことになる。

六よつて被控訴会社の抗弁について判断するに当裁判所も次に訂正するほか原判決説示の理由(原判決二一枚目表一〇行目から二五枚目表二行目まで)と同一であるからこれをここに引用する。

原判決二一枚目表末行から同裏一行目にかけ「本件(1)の自動車」とあるのを「本件自動車(但し(2)を除く)」と訂正し、右一行目の「により生じた」から二行目の「右契約」までを削除し、三行目の「ついても」とあるを「ついては」と訂正する。同二三枚目表三行目の「証人」から同五行目の「結果」までを「原審(第一、二回)及び当審証人西谷正二、原審証人細山光正の各証言、原審及び当審における被控訴人中野、原審における被控訴会社代表者各本人尋問の結果」と、同二四枚目表五行目の「あつた」とあるのを「なかつた」と、同六行目の「被告中野、被告会社各本人尋問の結果」とあるのを「原審及び当審における被控訴人中野、原審における被控訴会社代表者各本人尋問の結果」と各訂正する。

七次に被控訴人中野の抗弁について判断するにその主張は被控訴会社の右相殺及び代物弁済の抗弁を援用するにあるところ、右抗弁の理由がないことは右説示のとおりであるから被控訴人中野についても採用できない。

八されば控訴人に対し、被控訴会社は二六〇万五〇四三円及び被控訴人らは連帯して六一六万一七八〇円ならびに右各金員に対する被控訴会社につき、本訴状が送達された日の翌日であることの記録上明らかな昭和四九年九月八日から、被控訴人中野につき同じく同年一一月二三日から、各完済に至るまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるが、その余の義務のないことが明らかである。

九よつて控訴人の本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更しその余の控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(綿引末男 田畑常彦 寺澤光子)

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